こんな悩みはありませんか?
- 仕事が終わるとジムに行く気力が残っていない
- 家族との時間も大切にしたいから、1時間以上はトレーニングに使えない
- それでも「もっと強くなりたい、もっと筋肉をつけたい」という気持ちは消えない
そんな**“時間がないトレーニー”の強い味方になってくれるテクニックが、今回解説するドロップセット法**です。
この記事では、最新のメタ分析をもとに
- ドロップセット法が本当に筋肥大に有利なのか?
- どれくらいトレーニング時間を短縮できるのか?
- どの筋肉・どんな種目に使うのが科学的に合理的か?
- 実際のジムで使いやすい具体的なやり方・メニュー例
まで、現場でそのまま使えるレベルで整理していきます。
1. ドロップセット法とは? ― 定義と基本のやり方
1-1. ドロップセット法の定義
ドロップセット法とは、レジスタンストレーニングにおける高強度の時短テクニックです。
- まず通常のセットと同じように、
→ 限界(もう1回上げられないところ)まで挙上する - その後、休憩を最小限(ほぼノンストップ)にして
→ 重量を20〜25%程度落とす - 再び限界まで繰り返す
- これを1〜数回くり返す
というシンプルな方法です。
1-2. なぜ“効きそう”に見えるのか?(理論的背景)
理論上、ドロップセット法は次のようなメリットがあるとされています。
- 機械的張力の総時間が伸びる
→ 筋線維が「長時間引き伸ばされた状態」で働き続ける - 乳酸などの代謝ストレスが増大
→ 代謝ストレス自体が筋肥大シグナルになる可能性 - ほぼ休憩なしで負荷をかけ続けることで
→ 血流制限トレーニングに近い局所虚血状態が生じ、筋肥大シグナルが強く出る可能性
生理学だけ見ると、
「通常セットよりも“さらにデカくなりそう”」
なテクニックに見えるわけです。
2. エビデンスで検証:筋肥大効果は“本当に”高いのか?
結論から言えば、ボリューム(重量×回数×セット数)を揃えて比較すると、
ドロップセット法は「従来のトレーニングより筋肥大が有利」とまでは言えない
というのが現時点の結論です。
2-1. 2023年 ノルド大学のメタ分析
2023年にノルド大学から、
「ドロップセットと従来法で筋肥大に差はあるのか?」
を検証したメタ分析が発表されました。
- 対象研究:6本
- 被験者:142名
- 介入期間:6〜12週間
- 初心者と中級者を混在して解析
- 比較条件:総トレーニングボリュームが同じになるように調整
結果は以下の通り。
- ドロップセット法:効果量 0.55(中等度の筋肥大効果)
- 従来のトレーニング:効果量 0.43(同じく中等度)
数字だけ見ると、ドロップセットの方が良さそうですが、統計的には有意差なしでした。
つまり、
「同じボリュームをこなせば、
ドロップセットでも普通のセットでも、筋肥大量はほぼ同じ」
ということです。【筋トレ科学】ドロップセット法を徹底解説 ~究極の時短法~
代謝ストレスによる+αの筋肥大効果は、かなり個人差が大きく、
“魔法の筋肥大テクニック”とまでは言えないのが現状です。
3. 時間効率はどうか? ― 最大「1/3〜1/2」に短縮
ドロップセット法の本当の価値は、**筋肥大量を増やすことではなく「時間効率」**にあります。
同じメタ分析や個別研究では、
- 同じボリュームをこなすのにかかる時間が
→ 従来法の約1/3〜1/2に短縮された
と報告されています。
例:
- 普段のトレが60分かかる人なら、
→ ドロップセットを適切に使えば 30〜40分 に圧縮可能。- 週3日しかジムに行けない社会人にとっては、
→ この20〜30分の差が「継続のしやすさ」を大きく左右します。
4. 筋力への影響 ― 従来法とほぼ同じ
「高レップ・代謝系」に偏ったトレーニングは、最大筋力の伸びが弱くなりやすいイメージがありますが、ドロップセット法ではどうでしょうか?
4-1. 2022年 リーマンカレッジのメタ分析
2022年のリーマンカレッジ(Lehman College)のメタ分析では、
- 6週間以上のトレーニングを行った5本の研究を対象に、
- 筋力増強効果を比較
したところ、
- 筋力増加量は、従来のトレーニングと有意差なし
- 一方で、トレーニング時間は30〜70%短縮
という結果でした。
つまり、
「筋力の伸びは普通のトレと同じくらい。ただし時間はかなり短くできる」
これが現時点でのドロップセット法の科学的評価です。
5. どの筋肉に使うべき? ― タイプⅠ線維が多い筋肉が狙い目
ここからは、実際のトレーニングへの落とし込みです。
5-1. 筋線維タイプとドロップセットの相性
人間の骨格筋は大きく分けて3タイプ。
- タイプⅠ線維(遅筋):持久力寄り。酸化系(有酸素)に強い
- タイプⅡa線維(中間型):パワーと持久力のバランス型
- タイプⅡb線維(速筋):瞬発力特化。無酸素系(糖無酸素代謝)に強い
ドロップセット法は、
「限界を超えてなおレップを重ねていく」
という性質上、持久力を持つタイプⅠ線維が多い筋肉と相性が良いと考えられます。
5-2. ドロップセット法と相性の良い筋肉
タイプⅠ線維の比率が比較的高いと言われる筋肉としては、
- 体幹筋群
- 三角筋中部
- 大腿二頭筋
- 外側広筋
- 上腕三頭筋
- 上腕二頭筋
などが挙げられます。
これらの筋肉は、
通常のセットで「もう限界!」と感じていても、
実はまだ少し余力が残っていることが多い
ため、ドロップセット法でさらに一歩踏み込んだ刺激を入れるのに向いています。
5-3. 相性が良くないと考えられる筋肉
一方で、タイプⅡ線維の比率が高いとされる
- 大胸筋
- 広背筋
などは、「瞬発力」や「高重量」をしっかり扱いたい筋肉です。
これらの筋肉では、
- 高重量+低レップで神経系・最大筋力を優先して鍛える方が効率的
- 限界を超えてフォームが乱れると、肩関節・肩甲帯の怪我リスクが高い
といった理由から、ドロップセットの優先度は低めで良いでしょう。
6. どんな種目で使うべき? ― 基本は「マシン種目+一部のダンベル」
6-1. 原則は「マシン種目」
ドロップセット法は、
- 限界まで追い込む
- さらに重量を下げて連続で行う
という性質上、疲労が溜まった状態でのフォーム崩れが起こりやすくなります。
そのうえでフリーウェイトを使うと、
- バランスを崩して関節を捻る
- 体幹が耐え切れず、腰・肩を痛める
といったリスクが上がるため、基本はマシン種目での導入がおすすめです。
6-2. 具体的におすすめの種目
- 三角筋中部:
- ダンベルサイドレイズ(例外的にOK。扱う重量が軽く、フォームも比較的シンプル)
- 大腿二頭筋:
- レッグカール(マシン)
- 外側広筋:
- レッグエクステンション
- 上腕三頭筋:
- マシントライセプスエクステンション
- 上腕二頭筋:
- プリーチャーカール(マシン or EZバー+プリチャーベンチ)
これらの種目は
- 動作パターンがシンプル
- 可動域がガイドされている
- 限界を超えてもフォームが大きく崩れにくい
ため、ドロップセット法との相性が良いです。
7. 実践ルール:ドロップセット法「3つの鉄則」
7-1. 鉄則①:重量は“20〜25%ドロップ”が目安
- 1セット目:通常のトレーニング強度(例:10RM)で限界まで
- 2セット目(ドロップ1回目):重量を20〜25%下げて限界まで
- 3セット目(行う場合):さらに20〜25%下げて限界まで
このくらいの落とし幅にすることで、
- 2〜3セット目でもしっかりレップ数を稼げる
- それでいて完全に楽にはならない絶妙な強度を保てます。
7-2. 鉄則②:導入は「最後のセットだけ」
最も重要なポイントがこれです。
ドロップセット法は、各種目の「最後のセットだけ」に限定する。
理由はシンプルで、
- 毎セットでドロップセットを行うと、
→ その後のセットの強度が下がり、トータルのボリュームが稼げなくなる - 代謝疲労が強すぎると
→ 「トレーニングがしんどすぎて続かない」という心理的なデメリットも大きい
からです。
イメージ
- 本来3セット行う予定の種目
- 時間も余裕もある:3セットとも普通に行う
- 時間がない:
- 2セット目までは通常
- 3セット目(最後)のみドロップセット法
といった使い分けが現実的です。
7-3. 鉄則③:「時間がないときだけ使う」くらいでちょうどいい
ドロップセット法は、
- 「筋肥大を劇的に増やす奥義」ではなく
- 「予定していたボリュームを、短時間でこなすための保険」
と考えるのがベストです。
- 今日は残業でジム滞在時間が30分しかない
- でも脚のボリュームはなんとか確保したい
そんな場面で、
- レッグエクステンション・レッグカールの最後のセットだけドロップセット
- 三角筋の日は、サイドレイズの最後のセットだけドロップセット
という形で使うと、疲労を増やしすぎず、時間効率だけを上げることができます。
8. 具体的なメニュー例
8-1. 三角筋中部:サイドレイズ+ドロップセット
例:通常は12kgで10回が限界の人
- 1セット目:12kg × 10回(通常セット)
- 2セット目:12kg × 10回(通常セット)
- 3セット目:12kg × 限界まで
- すぐに 10kg に変更して限界まで
- さらに 8kg まで下げて限界まで
→ 所要時間は長くても数分ですが、三角筋中部はしっかり燃え尽きるはずです。
8-2. 脚:レッグエクステンション+レッグカール
- レッグエクステンション
- 2セット通常
- 3セット目だけドロップ(例:70kg → 55kg → 40kg)
- レッグカール
- 同様に、最後のセットだけドロップ
脚トレ全体の時間を短縮しつつ、
外側広筋・ハムストリングスのボリュームを確保できます。
9. 注意点とデメリット
9-1. 疲労蓄積とオーバーワーク
ドロップセット法は、「楽に時短できる」テクニックではありません。
その場の疲労感はむしろ増えます。
- 高頻度(毎回のトレーニングで多用)
- 多くの種目でドロップセットを乱発
すると、
- 中枢疲労の蓄積
- 筋肉痛の長期化
- テクニック種目(ベンチ・スクワット・デッド)でのフォーム崩れ
につながるリスクがあります。
⇒ **「全身で1セッションに2〜3セットまで」**を上限の目安にすると安全です。
9-2. 初心者にはややオーバースペック
- まだフォームが安定していない初心者
- 1RMの把握や重量設定が曖昧な段階
では、無理にドロップセットを使う必要はありません。
まずは
- 通常セットで
- 正しいフォーム・適切な重量・一定のボリューム
を習慣化してから、中級者以降のテクニックとして導入するのがおすすめです。
10. まとめ ― ドロップセット法は「時間がないトレーニー」の最強の味方
最後にポイントを整理します。
- 筋肥大効果
- ボリュームを揃えれば、従来法とほぼ同じ
- 「筋肥大率を劇的に上げる魔法のテク」ではない
- 筋力増強効果
- 従来法と同等
- 最大のメリットは「時間効率」
- 同じボリュームを 1/3〜1/2の時間でこなせる
- 導入する筋肉・種目
- タイプⅠ線維が多い
- 三角筋中部、大腿二頭筋、外側広筋、上腕二頭筋・三頭筋など
- 基本はマシン種目+一部のダンベル種目(サイドレイズなど)
- タイプⅠ線維が多い
- 守るべき3つのルール
- 重量は20〜25%ドロップ
- 最後のセットだけ導入
- 時間がないときの保険として使う
「焦らず、でも諦めず」に続けるための武器
- 忙しい社会人
- 家族持ちトレーニー
- 仕事の波が激しいフリーランス
どんなライフスタイルでも、トレーニングの継続こそが最強のサプリです。
ドロップセット法は、
「今日は時間がないけど、絶対にトレーニングしたい」
そんな日にこそ、本領を発揮します。
タイプⅠ線維の多い筋肉+マシン種目+最後のセットだけ
この3つを守りつつ、ぜひあなたのルーティンに取り入れてみてください。
参考文献
- Muscular adaptations in drop set vs. traditional training: A meta-analysis. Nord University, 2023.
- Muscular adaptations in drop set vs. traditional training: A meta-analysis. Lehman College, 2022.
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