「筋トレするとハゲるらしい」
ジム仲間やSNSで、そんな噂を一度は見聞きしたことがあると思います。
- ベンチプレスを頑張り始めたら、なんだかおでこが広くなってきた気がする
- 「筋トレしすぎるとテストステロンが増えてハゲるんだよ」と言われて不安になった
こんなモヤモヤを抱えたままだと、
せっかくの筋トレも、どこか全力で楽しめませんよね。
先にハッキリ言っておくと——
「普通に筋トレをしているだけ」で禿げることはほぼありません。
ただし、
間違った筋トレのやり方や、危険なサプリメントの使い方次第では、ハゲのリスクが“確実に”上がります。 【筋トレ科学】筋トレをしまくると禿げるの? ~生理学・解剖学で…
この記事では、
- 筋トレと男性ホルモンの正しい関係
- 「筋トレするとハゲる」都市伝説の正体
- 本当に禿げを進行させてしまう“危険な筋トレパターン3つ”
- オーバートレーニングを見抜く具体的な目安
を、生理学・解剖学の視点から分かりやすく整理していきます。
先に結論(ここだけ押さえればOK)
- ハゲに関わるのは**ジヒドロテストステロン(DHT)**であって、テストステロンそのものではない
- 筋トレで上がるテストステロンは15〜30%程度・時間も30分以内の“一時的上昇”
→ この程度ではDHT由来の脱毛リスクはほぼ変わらない - 本当に危険なのは、
- テストステロンブースター(特に質の悪いもの)の乱用
- 筋トレ後の栄養補給を完全にサボる習慣
- オーバートレーニングでホルモンバランスを崩すこと
- 上の3つを避ければ、筋トレ自体はむしろ髪にも身体にも“健康的にプラス”
- オーバートレーニングかどうかは
- 「その夜、眠れているか?」
- 「毎回“もう一回も上がらない”レベルまで追い込みすぎていないか?」
- 「セット直後、単語レベルの会話すらできないほど潰れていないか?」
このあたりを目安にする
では、順番に見ていきます。
1. なぜ「筋トレ=ハゲる」は都市伝説なのか?
1-1. ハゲに関わるのはテストステロンではなく「DHT」
男性型脱毛症(AGA)に強く関わるホルモンは
- テストステロン(T)
- ジヒドロテストステロン(DHT)
のうち、とくにDHTです。
DHTは、
- テストステロンに
- 5αリダクターゼという酵素が結びつく
ことで作られます。
- DHTは、性器や前立腺の発達には必要
- しかし、頭皮の毛包(毛根の器)の感受性が高い人では、
毛母細胞を傷め、ヘアサイクルを短くする → 薄毛が進行
という“諸刃の剣”のホルモンです。
ここから
「テストステロンが増える → DHTも増える → 筋トレでテストステロンが増える → ハゲる」
という雑な図式が広まっています。
1-2. 筋トレで増えるテストステロンは、時間も量も“限定的”
多くの研究で共通しているのは、
- 高強度の筋トレ後
→ テストステロンは15〜30%程度上昇
→ しかし30分以内に元のレベルに戻る 【筋トレ科学】筋トレをしまくると禿げるの? ~生理学・解剖学で…
という点です。
つまり、
- テストステロンが“ドカンと”上がるわけでもない
- 上がっている時間も“せいぜい30分程度”
この程度の変化で、
毛根の寿命を縮めるほどDHTが増え続ける、というのはかなり無理のある話です。
何年も筋トレを続けているアスリート・トレーナー・ボディビルダーが
全員ハゲているなら話は別ですが、現実はそんなことありませんよね。
1-3. 「禿げを進行させる」のは“継続的かつ爆発的なホルモン異常”
AGAを加速させるのは、
- 長期にわたって
- テストステロンやDHTが正常範囲を明らかに超えている状態
です。
こうした状態が起こるのは主に
- ステロイド使用
- テストステロンブースターなど、ホルモン作用の強いサプリメントの乱用
などであって、
普通の筋トレだけで、ここまでホルモンが異常値に跳ね上がることは考えにくいのがポイントです。
2. 本当に危ない「禿げが進行する筋トレパターン3つ」
ここからは、逆に**“これをやるとハゲリスクが上がる”**というパターンに絞って解説します。 【筋トレ科学】筋トレをしまくると禿げるの? ~生理学・解剖学で…
2-1. テストステロンブースターの使用
海外では「Testosterone Booster」と呼ばれるサプリが大量に売られています。
- 男らしさUP
- 性欲UP
- 筋肉量UP
といった派手なコピーで売られていますが、科学的に見るとかなり危険ゾーンです。
① ステロイド混入の問題
2013年の報告では、
- 一部のテストステロンブースターから
アナボリックステロイドが検出
というケースが明らかになっています。
表向きは「サプリメント」でも、
中身はほぼ「ホルモン剤」と変わらないものも紛れ込んでいる、ということです。
② 肝機能低下・ホルモン異常
2014年・テキサスA&M大学のケース報告では、
- ホルモンサプリメントを摂取した男性が
- 体脂肪減少
- 筋肉量+10kg
を達成した一方で、
肝臓の大幅な機能低下が確認されています。
当然ながら、テストステロンが正常値を大きく超えて高くなれば、
DHTも同じく増え、AGAの進行リスクは一気に高まると考えられます。
③ ハーブ系ブースターも「効くなら危ない・効かないなら無駄」
- ステロイドが入っていない「ハーブ系Tブースター」もありますが
→ 多くは有効性が証明されていない
→ かつ、もし本当に強く効くなら、それはそれでDHTリスクが上がる
さらに、FDA(米国食品医薬品局)のサイトでは、
「危険なサプリ」のリストが日々更新されており、Tブースター系は毎年多数がリスト入りしています。
何が入っているのか分からない
効果も安全性も不明
効いたら効いたでDHTリスク増大
これがテストステロンブースターの正体です。
結論:筋肉を大きくしたいなら、Tブースターではなく「トレーニングと食事」に投資した方が、髪にも身体にも100倍健全です。
2-2. 筋トレ後の栄養補給をサボる
一見、「テストステロンを上げるサプリ」とは逆方向ですが、
“筋トレ後に何も食べない”という行動もホルモンバランスを乱します。
1994年・テキサス大学の研究
- パワーリフター9名を対象
- トレーニング後に
- 水のみ
- 炭水化物だけ
- 炭水化物+たんぱく質
の3パターンに分けて、テストステロン濃度の変化を比較
結果(ざっくり)
- 水だけ:
- テストステロンが高止まりしたまま
- 炭水化物 or 炭水化物+たんぱく質:
- テストステロンが正常範囲内に戻る
つまり、
筋トレ後に何も食べないと、
テストステロンが必要以上に長く高止まりしやすい
ということです。
短期的には「テストステロンが高い=良さそう」に見えますが、
異常な高止まりはDHTへの変換リスクを高める可能性があります。
さらに、1998年・ボール州立大学の研究では
- 筋トレ後の栄養補給を疎かにし続けると
- テストステロンのバランスが崩れ
- 成長ホルモン分泌も低下
- 身体の回復が進みにくい
と報告されています。
成長ホルモンが低下した状態が続くと、
髪も肌も身体も“老けやすくなる” ということです。
実践:筋トレ後は「たんぱく質:炭水化物=1:3」を目安に
- たんぱく質:
- 筋タンパク合成の材料
- 炭水化物:
- グリコーゲン補充
- テストステロンの異常な高止まりを防ぐ
- たんぱく質の分解を抑える
理想は、筋トレ後30〜60分以内に
- ホエイ20〜30g
- 炭水化物60〜90g(おにぎり・パン・マルトデキストリンなど)
を入れておくことです。
一番まずいのは「水だけで済ませる」パターン。
筋トレ後は“髪と筋肉を守る行為”として、必ず栄養を入れてあげてください。
2-3. オーバートレーニング状態になるほどやりすぎる
2017年・サンパウロ連邦大学のレビューでは、
オーバートレーニング症候群のホルモン的側面がまとめられています。【筋トレ科学】筋トレをしまくると禿げるの? ~生理学・解剖学で…
オーバートレーニングに陥ると:
- 成長ホルモン(GH)↓
- 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)↓
- テストステロン:
- 低下する場合もあれば
- バランスが崩れて一時的に過剰分泌になる場合も
- コルチゾール(ストレスホルモン)↑
- 自律神経が乱れ、睡眠障害・うつ症状・免疫低下 など多数
ストレスホルモンのコルチゾールが高い状態が続くと、
- 血流悪化
- 皮脂バランスの乱れ
- 毛母細胞への栄養不足
を通じて、薄毛を進行させる方向に働くと考えられます。
筋トレは“やればやるほど良い”わけではなく、
運動+休息で初めて「良質なトレーニング」になるということです。
3. オーバートレーニングを見抜く「3つのチェックポイント」
「どこからがオーバートレーニングなのか」は、個人差が大きく難しいテーマです。
そこで、実際に使いやすい3つの基準を紹介します。【筋トレ科学】筋トレをしまくると禿げるの? ~生理学・解剖学で…
3-1. 筋トレした日の“睡眠の質”
2014年・サウスカロライナ大学の研究では、
- 通常の筋力トレーニングは
→ 睡眠の質をむしろ向上させる
ことが示されています。
しかし、トレーニング量が過剰になると、
- コルチゾールが急増
- 交感神経が過剰に優位
- 「疲れているのに眠れない」「夜中に何度も目が覚める」
といった症状が出てきます。
筋トレをした日の夜に、明らかに眠れない日が続く
→ 一度、トレーニング量を減らす or 休むサインと考えてください。
3-2. 主観的疲労度(RPE)が“常に10”になっていないか?
主観的疲労度(RPE)は、
- 10:もう一回も上げられない
- 9:頑張ればあと1〜2回できそう
- 8:まだ余裕がある
…というように、自分の感覚で負荷を評価する方法です。
研究的には、
- 毎回RPE9前後(あと1〜2回余力)のトレーニングが最も効率的
- 毎セットRPE10(完全に潰す)まで追い込むと、
→ 回復が間に合わずオーバートレーニングに陥りやすい
と言われています。
「限界までやらないと意味がない」と、
毎回“もう無理”になるまで追い込んでいる人は要注意です。
3-3. トークテスト:「単語レベル」でしゃべれるか?
トークテストは、本来は有酸素運動の強度評価ですが、
筋トレ後の疲労度チェックにも応用できます。
- 単語レベル
- 「水…」「つかれた…」くらいはしゃべれる → 適度
- 短文レベル
- 「まあまあキツいけど大丈夫です」くらい言える → やや軽め
- 言葉が全く出ない/呼吸が苦しくて声が出ない
→ 強度が高すぎるサイン
セット直後に「水…」くらい言えるならOK、
それすら出ないほど毎回潰れているなら、オーバートレーニングの入り口だと考えてください。
4. じゃあ、どうすれば「筋トレも髪も」守れるのか?
ポイントをまとめると、
- 普通の筋トレそのものはハゲの原因にはならない
- 禿げを進行させやすいのは
- テストステロンブースター(特に質の悪いもの)
- 筋トレ後の栄養補給をサボる習慣
- オーバートレーニング
- オーバートレーニングを避けるために
- トレーニングした日はよく眠れているか
- RPE9くらいで止めておけているか
- セット直後、「単語レベル」で話せる余力はあるか
これらを守れば、
- 筋肉
- 健康
- メンタル
- そして髪
を同時に守りながら、安心して筋トレを続けることができます。
「筋トレをすると禿げる」ではなく、
「正しい筋トレは、むしろ髪と身体の“アンチエイジング”になる」
これが、生理学・解剖学から見た本当の姿です。
オーバートレーニングや怪しいサプリとはきっぱり距離を置きつつ、
しっかり食べて・しっかり休んで・正しく鍛える。
それが、筋肉も髪も守るいちばんの近道です。
References(英語)
- Balsom PD et al. Overtraining syndrome: hormonal aspects. A systematic review. BMC Sports Sci Med Rehabil. 2017.
- Kraemer WJ et al. Nutritional interventions and hormonal responses after resistance exercise in powerlifters. Univ. of Texas, 1994.
- Ball State University study on post-exercise nutrition and anabolic hormone responses, 1998.
- Case report from Texas A&M University on hormone supplements, rapid muscle gain and hepatic dysfunction, 2014.
- Reports on contamination of commercial “testosterone booster” supplements with anabolic steroids, 2013.
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