結論:1週間休んでも筋肉はほぼ落ちない。ただし「どう休むか」で意味が変わる
先にこの記事のポイントをまとめておきます。
- ニューヨーク市立大学(CUNY)の最新研究では、9週間の筋トレプログラムの途中に**1週間のディロード(負荷を下げた週)**を入れても、
- 大腿四頭筋の筋厚
- パワー(垂直跳びなど)
は、休みなしで続けたグループと同等に向上していました。
- ただし最大筋力については、
- ずっと休まずトレーニングしたグループの方が、
- 途中でディロードしたグループより、わずかに上回る結果でした。
- 一方で、
- 「1週間ベッドの上からほぼ動かない」レベルの完全安静だと、若年男性でも除脂肪量が約1.4kg減少、太ももの断面積も約3%減少します。
- しかし普通に日常生活を送りながら筋トレだけ2週間休む程度なら、筋力も筋肉量もほとんど変化しないという研究もあります。
- さらに、6週間トレ→3週間休み→再開のように、あえて「休みを挟むトレーニング」の方が、
- 再開後の伸びが大きくなる(筋サテライト細胞や“筋肉の記憶”によるリセンシタイゼーションが起こるかも)というデータもあります。
つまり、
・「完全寝たきり」は1週間でもかなりヤバい
・普通に生活しながら1週間〜2週間ジムを休むくらいなら、筋肉はほとんど落ちない
・むしろ上手にディロードを挟むと、長期的な筋発達にはプラスに働く可能性が高い
というのが、現時点の科学的な答えです。
ここからは、具体的な研究データとともに「休み方の実践的な設計方法」まで落とし込んでいきます。
1. 最新研究:1週間のディロードで筋肉・筋力はどう変化したのか?
1-1. 研究デザイン(Coleman et al., 2024)
2024年にColemanらが発表した論文
**「Gaining more from doing less? The effects of a one-week deload period during supervised resistance training on muscular adaptations」**は、
「途中で1週間ディロードを入れると、筋発達はどう変わるのか?」を直接検証した、非常に貴重な研究です。
- 対象:
- 18〜40歳の男女 39名
- 期間:
- 合計9週間のレジスタンストレーニング
- 週あたりのトレーニング:
- 週4回(上半身2回+下半身2回)
- グループ分け:
- 連続トレーニング群:9週間ずっと同じようにトレーニング
- ディロード群:
- 真ん中あたりの1週間だけ負荷を大幅に落とす(ボリュームを下げる)ディロード週を設定
評価指標は、
- 大腿四頭筋の筋厚(超音波)
- 筋力(等速性ダイナモメーター)
- パワー(垂直跳びなど)
といった、かなりしっかりしたものが揃っています。
1-2. 結果:筋肥大とパワーは同じ、筋力だけやや連続群が有利
結果をざっくり言うと、
- 筋肉の厚さ(大腿四頭筋)
→ 9週間後の増加率は、どちらの群もほぼ同じ - パワー(垂直跳びなど)
→ こちらもディロード群と連続群で有意差なし - 筋力(最大筋トルク)
→ 連続トレーニング群の方が、わずかに増加率が高い
というパターンでした。
ポイントは、
「1週間ディロードを入れても、筋肥大・パワーには悪影響なし」
「筋力だけ、ほんの少しだけ連続群が有利」
というバランスです。
ただし、筋力の差も**「わずか」**で、
日常・競技レベルで体感できるかはかなり微妙なレベルと考えられます。
1-3. 研究者の解釈:ディロードは「長期戦」で効いてくるかも
Colemanらは、ディロードについて以下のような可能性を示唆しています。
- 長期的に見ると、
- **筋肉のアナボリックシグナル(同化シグナル)**や
- トレーニングへの“感受性”(リセンシタイゼーション)
を回復させることで、
次のトレーニングサイクルの伸びが良くなる可能性
- また、肉体的疲労だけでなく
- 「精神的な疲労」
- 「モチベーションの低下」
を防ぐことで、**継続率の向上(=最大の筋肥大ファクター)**にも貢献するだろう、という点です。
この研究は9週間という比較的短期のデータなので、
「1年単位で見たら、定期的ディロードを入れた方がトータルの伸びは良くなる」
という可能性は十分にあります。
2. 「寝たきり1週間」と「普通に休む1〜2週間」は全く別物
「1週間休む」と聞くと、
頭の中で
1週間ベッドの上で全く動かない
レベルのイメージをしてしまいがちですが、
研究的にはここをしっかり分けて考えないといけません。
2-1. 1週間の完全安静は、筋肉1.4kgの損失レベル(Dirks et al., 2016)
オランダのDirksらは、若い男性10名に1週間のベッドレストを課し、筋肉と代謝への影響を調べました。
- 対象:健康な若年男性 10名
- 条件:ほぼベッド上で1週間生活
- その間も食事は十分に摂取
結果:
- 除脂肪量:−1.4 ± 0.2 kg
- 大腿四頭筋の断面積:−3.2 ± 0.9%
- 最大筋力:−約7%
- 全身のインスリン感受性:−約29%
要するに、
1週間“ほぼ寝たきり”だと、若くても筋肉はガッツリ落ちるし、代謝もかなり悪化する
ということです。
ただし、これはあくまで**「病気やケガでベッドからほぼ出ないレベル」の話**です。
普通に通勤・家事・歩行をしている人には当てはまりません。
2-2. 普通に生活しながら2週間トレーニングを休んでも、筋力は維持される(Hwang et al., 2017)
一方で、アメリカの研究では、筋トレ経験者が2週間トレーニングを休んだ場合の影響も調べられています。
- 対象:筋トレ経験のある男性
- 期間:
- レジスタンストレーニング実施 →
- その後2週間トレーニングを完全にストップ
- 日常生活は普通に送る(ベッドレストではない)
結果:
- 2週間の休止後も
- 筋力はほぼ維持
- 筋肉量も有意な低下なし
→ つまり、
「普通の生活+2週間のジム休み」程度なら、筋肉はほとんど落ちない
ということです。
3. 3週間休んでも、最終的な筋肥大は同じ(東京大学・キール大学の研究)
3-1. 6週間トレ→3週間休み→再開でも、最終的な筋肉量は同じ(Ogasawara et al., 2013)
東京大学のOgasawaraらは、
**「連続トレーニング」と「休みを挟みながらのトレーニング」**を24週間比較しました。
- CTR群:
- 24週間連続でベンチプレス(週3回)
- PTR群:
- 6週間トレーニング
- 3週間完全休止
- これを3サイクル(合計24週間)
結果:
- 24週終了時点の
- 筋断面積(胸・上腕三頭筋)
- 最大筋力(1RM)
は両群ともほぼ同じ
- むしろ
- 2回目・3回目の「6週間再開」の方が伸び率が大きかった
つまり、
3週間休んでも、再開後にしっかりトレーニングすれば、最終的な筋肥大は連続トレと同じになる
+ 休みを挟んだ方が「再開後の伸び」が鋭くなる可能性もある
ということです。
3-2. 7週間トレ→7週間休み→7週間トレでも、最終的な筋量はむしろ増えた(Kiel大学)
ドイツ・Kiel大学の研究では、
- 7週間 全身トレーニング(週3回)
- 7週間 完全休止
- その後 再び7週間トレーニング
というかなり長い「休み」を挟んだ場合の変化を見ています。
結果の流れ:
- 最初の7週間のトレーニングで
- 筋量・筋力ともに増加
- 7週間の休止で
- 筋量・筋力ともにいったん低下
- 再開後の7週間のトレーニングで
- 1回目よりも高いレベルまで筋量・筋力が増加
- 除脂肪体重も、最終的にはベースラインより有意に増加
このことから、
「休む → 小さくなる → 再開で以前より大きくなる」
という筋肉の“メモリー”現象が強く関係していると考えられています。
3-3. 10週間くらいのブレイクでも、長期的な筋発達は損なわれない可能性(Halonen et al., 2024)
さらに、2024年のHalonenらの研究では、断続的なレジスタンストレーニングと連続的なトレーニングを比較し、
「ときどき長めのブレイク(最大10週間)を挟んでも、長期的な筋量・筋力の最終値はしっかり伸びる」
という結果も示されています。
もちろん、その間は一時的に筋量・筋力は落ちますが、「長期的なトータルの伸び」が削られるわけではない、というのは心強いポイントです。
4. なぜ「上手な休み」はむしろプラスなのか?フィットネス・疲労理論で理解する
ここで、原稿でも触れていた**「フィットネス・疲労理論(fitness–fatigue model)」**を使って整理します。
4-1. フィットネスと疲労の合計が「その日のパフォーマンス」
ざっくりいうと、トレーニング後の身体には常に
- フィットネス(適応)=+方向の変化
- 疲労(fatigue)=−方向の変化
が同時に存在していて、
この合計が「その日のパフォーマンス」になるという考え方です。
- 例:
- フィットネス:+10
- 疲労:−30
→ 合計:−20(今日はパフォーマンス悪い)
ここで1日休むと、
- フィットネス:+8(少しだけ下がる)
- 疲労:0(しっかり抜けた)
- 合計:+8(かなり動ける)
こういうイメージです。
4-2. オーバーリーチング vs オーバートレーニング
トレーニング強度が高い時期に、
- 数日〜1週間の休みで回復するレベルのパフォーマンス低下 → オーバーリーチング
- 数週間休んでもなかなか戻らないレベルの疲弊 → オーバートレーニング
と考えると分かりやすいです。
オーバーリーチングの段階で、意図的にディロードを入れることで、
- 疲労をガツンと抜く
- フィットネスはそこまで落とさない
→ 結果的に次のサイクルの伸びが良くなる、というのがディロードの狙いです。
5. 実践編:ディロードの「タイミング」と「期間」の決め方
エビデンス的には「この期間が絶対にベスト!」という答えはまだありませんが、
これまでの研究と現場の知見を組み合わせると、以下のような指針が妥当です。【NEW STUDY】1週間筋トレを休むと筋肉はどうなる? ~…
5-1. 「いつ休むか」は“感覚”ではなく“パフォーマンス”ベースで決める
NGパターン
- 「なんとなく疲れた気がするから、毎週2日は完全休息」
→ もちろん悪くはないのですが、
「ただサボる日」と「戦略的なディロード」を区別する必要があります。
OKパターン(目安)
- 筋トレ初心者(歴6か月未満)
- ほぼ毎回、重量か回数が伸びていくのが普通
- 「ここ数回のトレで、全く伸びていない or むしろ下がっている」
→ ディロードのサイン
- 中級〜上級者(歴≥1年)
- 普段扱っている重量(または回数)を明らかに維持できなくなった
- その状態が複数回のトレーニングで続く
→ ディロードのサイン
このように、
「なんとなく疲れた」ではなく
「パフォーマンスが落ちている」という客観的指標で休みを入れる
のがポイントです。
5-2. ディロード期間の長さ:筋繊維タイプでざっくり分ける
科学的には「タイプIが多い人は何日」などのデータはほぼありませんが、
現場レベル+理論から見て、以下のような指針は合理的です。【NEW STUDY】1週間筋トレを休むと筋肉はどうなる? ~…
① 遅筋(タイプI)が多い人の目安
- 子どもの頃、長距離走・持久走が得意だったタイプ
- 今も持久系は比較的得意
→ ディロード期間:3日〜1週間程度
- 例:
- 4週間しっかり追い込む
- その後3〜7日ほど、完全休養 or 負荷を半分以下に落とす
遅筋優位な人は回復が速い傾向があるため、
長すぎるディロードは「単なるサボり」になりやすいです。
② 速筋(タイプII)が多い人の目安
- 子どもの頃、短距離走やジャンプが得意
- 高重量トレ・瞬発系が好き/得意
→ ディロード期間:1週間〜2週間程度
- 例:
- 4週間ハードにトレーニング
- その後1〜2週間はボリュームや負荷をガッツリ落とす
速筋優位な人は、高強度トレーニングでの疲労蓄積が大きいため、
ディロード期間も余裕を持たせた方が無難です。
③ 筋繊維タイプの把握方法
- ざっくり自己評価
- 長距離得意 → 遅筋寄り
- 短距離得意 → 速筋寄り
- より正確に知りたい場合は、遺伝子検査キットなどでタイプを推定する方法もあります(例:Amazonの検査キットなど)。
5-3. ディロード週に「何をやるか?」
完全に何もしない「オフ」にするか、軽く動くかは目的次第ですが、筋肥大目的なら以下のどれかがおすすめです。
- ボリュームを半分〜3分の1にする
- セット数を減らす
- 種目数を減らす
- 負荷(%1RM)を落とす
- いつもより2〜4レップ余力が残る重量にする
- RIRベースで管理
- 普段:RIR 1〜2(限界の1〜2回手前)
- ディロード週:RIR 3〜5
完全オフにしてもいいですが、
「ジムには行くけど、強度はかなり落とす」
という形の方が、ルーティンを崩しにくく、メンタル的にも楽な人が多いです。
6. よくある不安への答え
Q1. 3日休んだだけで腕や脚が細くなった気がする…
→ ほとんどが「パンプとグリコーゲン」の問題です。
- 筋トレ直後は
- 筋グリコーゲンに結びついた水分
- 血流増加
によって、筋サイズは一時的に膨らんでいます。
- 数日休むと
- グリコーゲンと水分が通常レベルに戻る
→ ハリが取れて、見た目が一回り小さく見える
- グリコーゲンと水分が通常レベルに戻る
これは「筋繊維そのものが萎縮した」のではなく、
水分とグリコーゲンが抜けただけと考えるのが妥当です。
Q2. 1週間ジムに行けない。もう終わりですか?
→ 全然終わりじゃないどころか、むしろチャンスになり得ます。
- 普通に日常生活を送りながら1週間休む程度では、
- 筋肉量が有意に落ちるエビデンスはほぼない
- むしろ、
- 疲労をリセットし、
- 筋トレへのモチベーションを回復させ、
- 次サイクルでの伸びを良くするチャンスになり得る
「1週間休んだから全部パー」ではなく、
「上手なディロード週をタダで手に入れた」と捉える方が正しいです。
Q3. 2週間休んだらどうなる?
- ベッドレスト級の活動低下 → ガチで筋委縮(1.4kg減)とインスリン抵抗性悪化のリスク
- 日常生活レベルを維持しながら2週間だけ筋トレOFF →
- 筋力も筋量もほぼ維持されるというデータあり
なので、ケガや病気で完全に動けないケースを除けば、
2週間休んでも「取り返しがつかない」ことにはまずなりません。
7. 今後のディロード戦略:実践テンプレ
最後に、実際に使えるテンプレをまとめておきます。
パターンA:週4〜6回トレーニングしている中〜上級者
- 4週間:
- 各部位 10〜20セット/週
- RIR 1〜2(限界の1〜2回手前)
- 5週目:
- セット数を半分
- RIR 3〜5
- 種目も少し減らす
「なんか最近強度が上がらない」「いつもより重い」と感じてきたら、
このディロード週を前倒ししてもOK。
パターンB:週2〜3回の全身トレをしている初心者〜初中級者
- 6〜8週間:
- 基本的に毎回、フォームと重量の向上を狙う
- その間に
- 2回連続でパフォーマンスが明らかに落ちたら
→ 次の1週間は重量もボリュームも7割程度に落とす
- 2回連続でパフォーマンスが明らかに落ちたら
初心者の場合は、「完全に休む」よりも「軽めに続ける」方が習慣化には有利です。
パターンC:大会前後や仕事が極端に忙しい時期
- どうしても1〜2週間ジムに行けない期間があるなら、
- それを**「計画的ディロード」とみなす**
- 期間中は、
- 日常の歩数を減らしすぎない
- たんぱく質摂取だけはキープ
- 再開1〜2週目は、いきなり元の強度に戻さない
まとめ
- 1週間のディロードは、最新の研究では
- 筋肥大・パワーにはほぼマイナス無し
- 筋力のみわずかに連続群が優位、でも差は小さい
- 完全寝たきり1週間は
- 筋肉1.4kg減・CSA約3%減・インスリン感受性大幅低下という、かなり危険な状態
- 日常生活を送りながら1〜2週間筋トレを休む程度では、
- 筋力も筋肉量もほとんど変わらないというデータ多数
- 6週間トレ+3週間休みを繰り返しても、
- 24週後の筋量・筋力は連続トレとほぼ同じ
- むしろ「再開後の伸び」が大きくなるケースも
- 休みのタイミングは「なんとなく」ではなく、
- パフォーマンスの低下(オーバーリーチングのサイン)で判断する
- ディロード期間は、
- 遅筋寄り:3日〜1週間
- 速筋寄り:1〜2週間
をひとつの目安として、自分の体と相談しながら調整する
参考文献(英語)
- Coleman M, Burke R, Augustin F, et al. Gaining more from doing less? The effects of a one-week deload period during supervised resistance training on muscular adaptations. PeerJ. 2024;12:e16777. doi:10.7717/peerj.16777.
- Dirks ML, Wall BT, van de Valk B, et al. One week of bed rest leads to substantial muscle atrophy and induces whole-body insulin resistance in the absence of skeletal muscle lipid accumulation. Diabetes. 2016;65(10):2862–2875. doi:10.2337/db15-1661.
- Hwang PS, Andre TL, McKinley-Barnard SK, et al. Resistance training-induced elevations in muscular strength in trained men are maintained after 2 weeks of detraining and not differentially affected by whey protein supplementation. J Strength Cond Res. 2017;31(4):869–881.
- Ogasawara R, Yasuda T, Ishii N, Abe T. Comparison of muscle hypertrophy following 6-month of continuous and periodic strength training. Eur J Appl Physiol. 2013;113(4):975–985. doi:10.1007/s00421-012-2511-9.
- Halonen EJ, et al. Does taking a break matter? Adaptations in muscle strength and size between periodic and continuous resistance training. Scand J Med Sci Sports. 2024. (Ahead of print).
- Dirks ML, Wall BT, Goossens GH, et al. The impact of bed rest on human skeletal muscle metabolism. Cell Reports Medicine. 2024;5(5):101345.
- Chen YT, Kuo CH, Lai CC, et al. Two weeks of detraining reduces cardiopulmonary function and muscular fitness in endurance-trained men. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(3):1503.
コメント