体温を上げる栄養素 〜平熱36.5℃を目指す食事戦略〜

「平熱が36.0℃台前半で、いつもなんとなくダルい」
「冷え性でトレーニングの調子が上がらない」

そんな方に向けて、今回は体温を上げるための栄養戦略を、論文ベースで整理します。


目次

なぜ「体温」がそんなに大事なのか?

体温が下がると起こること

  • 体温が 0.5℃下がるだけで、代謝は約5〜7%低下すると言われています。
  • 代謝が落ちると
    • 太りやすくなる
    • 疲れやすくなる
    • 免疫機能が落ちる
      といった不調につながります。

さらに、寒冷暴露や冷水浴などで筋肉が冷えると、筋肉へのダメージも出てきます。

  • ラットを24時間寒冷環境にさらすと、筋タンパク質の合成が低下し、分解が促進されたという報告
  • 筋トレ後に冷水浴をすると、筋衛星細胞(筋核の元になる細胞)の活性が落ち、長期的には筋力・筋肥大が抑えられたというヒト研究

つまり、

「冷え」は単なる不快感ではなく、筋肉の成長そのものをブレーキしてしまう要因です。


体温を上げるとどんなメリットがある?

一方で、筋肉の深部温度を0.6〜1.0℃ほど上げると、次のような良い変化が起こることが示されています。

  • 筋収縮速度の向上
  • 発揮できる筋力の増加
  • 筋膜や関節の粘性が低下し、動きがスムーズになる
  • 垂直跳びなどのパフォーマンス指標が 約4%前後向上 したというデータもあり

つまり、

「体温を上げる=その日のパフォーマンスを底上げするブースター」

と考えてもらって構いません。


現代人は「平熱が下がっている」

1950年代の日本人のデータでは、
10〜50代の健康成人の平均体温は おおよそ36.9℃前後 と報告されています。

一方、近年の調査では、
成人の平均体温は 36.4℃前後 まで低下しているという報告もあります。

平熱の低下は

  • 血流の悪化
  • 免疫力の低下
  • 老化の進行
  • 筋の発揮率の低下

などと関連しており、基礎体温が36.0℃を下回る状態が続くと、様々な病気リスクが高まると指摘する報告もあります。

筋肉のパフォーマンスを十分に発揮するためには、少なくとも平熱36.5℃以上を目指したいところです。


体温を上げる栄養素を「エビデンスレベル」で分類

ここからは、体温を上げる(あるいは下げない)栄養素を、科学的根拠の強さに応じて3段階に分けて紹介します。

  • エビデンスレベルA
    ヒトを対象とした研究が複数あり、系統的レビューやメタ解析などで効果が支持されているもの
  • エビデンスレベルB
    ヒト研究で「効果あり」とする報告はあるが、研究数が少ない・結果にばらつきがあるもの
  • エビデンスレベルC以下
    動物研究や試験管レベルが中心で、ヒトでのデータが乏しいもの
    → 今回は割愛します。

エビデンスレベルA:体温をしっかり押し上げる栄養素

A-1. たんぱく質(特にホエイ・肉・魚)

まず 最重要の「特Aクラス」 がたんぱく質です。

3大栄養素にはそれぞれ「食事誘発性熱産生(DIT)」がありますが、あるレビューでは次のように整理されています。

  • 脂質:摂取エネルギーの 0〜3% が熱に
  • 炭水化物:5〜10%
  • たんぱく質:なんと 20〜30% が熱として消費

つまり、同じカロリーを食べても、たんぱく質ほど“体温アップ”につながる栄養素はないということです。

さらに、1食あたり体重1kgあたり約0.4g(体重70kgなら約28g)のたんぱく質を摂取すると、体温が有意に上がるという報告もあります。

動物性>植物性たんぱく質の傾向

古いですが有名な研究では、たんぱく源によってDITが異なることも示されています。

  • 大豆たんぱく質:DIT 約11.6%
  • カゼイン:約12%
  • ホエイ:約14.4%

また、最新の研究でも 動物性たんぱく質(肉・魚・乳製品)の方が、植物性たんぱく質よりも熱産生が高い傾向が報告されています。

もちろん植物性たんぱく質でもDITは上がりますが、
「体温を上げる」という観点ではホエイ・肉・魚にやや軍配が上がるイメージです。

実践ポイント

  • 朝食で動物性たんぱく質を入れるのが特におすすめ
    • 例)ホエイプロテイン+卵、焼き魚+味噌汁、鶏ハム+ご飯 など
  • 1食あたり「体重×0.4g」を目安に、たんぱく質量を確保する

A-2. カプサイシン(唐辛子)

続いてのAランクが、唐辛子に含まれるカプサイシンです。

カプサイシンには

  • 交感神経を活性化する
  • 褐色脂肪細胞や筋肉での熱産生を増やす

といった作用があり、多くの研究で

1日 2〜10mg 程度の摂取で体温アップ効果

が報告されています。

どのくらい摂ればいい?

  • 2mg なら 耳かき1杯くらい のごく少量
  • 普段の料理に
    • 唐辛子パウダーを少し振る
    • 辛味スパイスを仕上げに足す
      といった形で「毎日少量を続ける」のがおすすめです。

サプリや辛いスナックで大量に摂ると胃腸を荒らすリスクもあるので、日常食への少量トッピングくらいがちょうど良いバランスです。


A-3. カフェイン(コーヒー・緑茶など)

3つ目のAランクが カフェイン です。

カフェインは

  • 交感神経を刺激
  • 脂肪酸の動員・酸化を促進
  • それに伴い、熱産生が増える

といった働きがあり、ヒト研究でも

  • 100〜200mg 程度のカフェイン摂取でDITが有意に増加
    (レギュラーコーヒー1杯で約80〜120mgが目安)

と報告されています。

実践ポイント

  • 朝食時に コーヒー1杯 を習慣化する
  • カフェイン耐性や睡眠への影響を考えると、
    15〜16時以降は控えめ にするのが無難

エビデンスレベルB:条件付きで体温を支える栄養素

ここからは、「効果はありそうだが条件付き」 の栄養素です。

B-1. 炭水化物(「体温を落とさない」ための糖質)

栄養士さんがよく

「しっかりお米を食べると体温が上がりますよ」

とアドバイスすることがありますが、これは半分正解で半分不正解です。

炭水化物のDIT自体は 5〜10% と中程度で、確かにゼロではありません。

ただし、研究を詳しく見ると、

  • 低炭水化物食や長期カロリー制限では
    • 甲状腺ホルモンT3の低下
    • 代謝量の低下
    • コア体温の低下
      が起こりやすい
  • 高炭水化物食の方が低炭水化物食より
    T3を維持しやすい という報告が複数ある

といった形で、

「炭水化物を増やせば体温が劇的に上がる」というより、
「糖質を削りすぎると体温が下がるのを防ぐ」役割

としてのエビデンスが強い、というのが正確です。

実践ポイント

  • 極端なローカーボ・ケトジェニックを長期に続けている人は、
    トレーニング量に見合った糖質量を確保する(特にトレ前後)
  • 「体温が下がってきた」「だるさが強い」などの自覚があれば、
    一度適正な炭水化物量に戻して様子を見る価値があります。

B-2. 生姜(ジンジャー)

次は 生姜(ジンゲロール・ショウガオール) です。

ヒト研究では

  • 生姜飲料の摂取後に、額や手首の皮膚温が上昇した
  • 生姜ティーで食後のエネルギー消費(DIT)が増えた

といったデータがある一方で、

  • 有意な熱産生↑が認められなかった試験

も存在し、結果が割れているのが現状です。

まとめると、
「末梢のポカポカ感」や「DITが少し上がる」方向のデータはあるが、
個人差が大きく、常に誰でも上がるとは言えないためレベルB、という位置づけです。

実践ポイント

  • 生姜湯・生姜紅茶・味噌汁の生姜プラスなど、日常の温かい飲み物+αとして取り入れる
  • 「飲むと確かに温まる」と自覚できるなら、その人にとっては有効な戦略と考えてOK

B-3. その他の辛味スパイス

(黒胡椒・マスタード・ホースラディッシュ・ワサビなど)

黒胡椒、マスタード、ホースラディッシュ、ワサビなどには

  • TRPV1 / TRPA1 という温度感受性の受容体を刺激する成分

が含まれ、交感神経や血流に影響すると考えられています。

ヒト研究の中には、

  • これらの辛味スパイスを含む食事で、食後4時間のDITがわずかに増加した

とする報告もありますが、その効果量はかなり小さいです。

そのため、
「全くのゼロではないが、Aに入れるほど強くもない」
という意味で 弱めのBランク として扱うのが妥当でしょう。

実践ポイント

  • 黒胡椒・マスタード・ワサビなどを、
    塩分の取りすぎに注意しつつ「風味+α」で使う
  • 単体で体温を大きく上げる狙いではなく、
    メイン(たんぱく質+カプサイシン+カフェイン)を補助する位置付けにすると良いです。

1日の実践プラン例

最後に、紹介した栄養素を組み合わせた「1日の例」を挙げておきます。

朝食

  • ホエイプロテイン 1杯(20〜30gたんぱく質)
  • 卵1〜2個 or 焼き魚
  • ご飯(茶碗1杯)
  • ブラックコーヒー1杯(カフェイン100mg前後)

たんぱく質+炭水化物+カフェイン で、その日の体温ベースを底上げ。

昼食

  • 鶏胸肉・赤身肉・魚などを中心にした主菜
  • ご飯 or 玄米
  • 野菜スープに 生姜を少量追加
  • 仕上げに黒胡椒をひと振り

夕食

  • たんぱく質源(魚・肉・豆腐など)
  • 適量の炭水化物(トレーニング状況に合わせて調整)
  • スープや炒め物に 唐辛子スパイスを耳かき1杯程度 加える

間食

  • 寒い日・冷えを感じる日は、生姜入りのハーブティーやホットプロテインなど
  • カフェインは摂りすぎると睡眠の質を下げ、結果的に体温リズムも乱れるため、夕方以降はノンカフェインに切り替える

まとめ:体温36.5℃を「栄養」で作る

エビデンスレベルA

  • たんぱく質(特にホエイ・肉・魚)
  • カプサイシン(唐辛子)
  • カフェイン(コーヒー・緑茶 等)

エビデンスレベルB

  • 炭水化物(体温を「落とさない」ための適正量)
  • 生姜
  • その他の辛味スパイス(黒胡椒・マスタード・ワサビ など)

最後に

  • 極端な糖質制限やカロリー制限は、甲状腺ホルモン・体温を下げるリスク
  • たんぱく質・カプサイシン・カフェインをうまく組み合わせると、DITを高めて「燃えやすい身体」に近づける
  • 生姜やスパイスは「自分が温まる実感があるか」を見ながら、快適な範囲で続ける

体温を上げて、筋肉をよく動く状態にすることが、トレーニングの質を高め、日常生活のパフォーマンスも底上げしてくれます。

ぜひ、今日の食事から一つずつ取り入れてみてください。


参考文献・関連記事

  • Energy expenditure and thermic effect of food after different macronutrient meals.
  • Effects of cold exposure on muscle protein metabolism in rodents.
  • Post-exercise cold water immersion and its impact on muscle hypertrophy and strength.
  • Muscle temperature and performance: effects of passive warm-up.
  • Thermic effect differences among protein sources
  • Animal vs plant protein intake and diet-induced thermogenesis.
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