〖筋トレ科学〗筋肉は何週間もつのか?──20本の研究でわかった「休んでも消えない」筋肉の真実

「筋トレをしばらく休んだら、せっかくの筋肉が全部消えそうで怖い…」
「ケガや仕事で数週間〜数ヶ月トレーニングできない。もう終わり…?」

こういう不安、筋トレをしている人なら一度は感じたことがあると思います。

結論から言うと——

筋力は4〜6ヶ月休んでも、かなりの部分が残る
筋肉量は3ヶ月程度の休息でかなり落ちるが、“ゼロ”ではない
しかも、一度つけた筋肉は「筋核」が残るおかげで、再スタートすると爆速で戻る

つまり、**長期のオフは「努力がゼロになる期間」ではなく、「次の伸びのための準備期間」**になり得る、というのが最新の結論です。

この記事では、

  • 2022年 アリゾナ州立大学:20本・616名のメタ分析
  • 2024年 ユヴァスキュラ大学:10週間完全オフ→再トレでどうなるか?
  • 最新の筋核・筋サテライト細胞研究

をもとに、

「筋肉は何週間もつのか?」
「どこまでなら安心して休めるのか?」
「休んでも“戻りやすい身体”をつくるには何をすればいいのか?」

を、ブログ用に整理して解説していきます。


目次

先に結論だけ押さえたい人向け:5つのポイント

  1. 筋力は4〜6ヶ月休んでも“上乗せ分”が残る
    • 16〜24週間(約4〜6ヶ月)トレーニングを休んでも、
      → ベンチプレス・レッグプレスの筋力はトレーニング前より高いレベルを維持
    • ただし、32週間(約8ヶ月)の休息では未訓練レベルまで低下
  2. 筋肉量は3ヶ月休むとかなり戻る
    • 約12週間(3ヶ月)の休息で、筋肉の断面積(CSA)はほぼ元のレベルまで減少
    • 6ヶ月時点では、「増えた分」はほぼゼロに
  3. “一度つけた筋肉”は、戻るスピードが速い(筋メモリー)
    • 10週間完全オフのあとに再開したグループは、
      最初の10週間で得た筋力・筋肥大を、約5週間で取り戻す
      → さらに5週間で、休まず30週間トレーニングしたグループと同等レベルまで到達
  4. カギは筋核・筋サテライト細胞
    • トレーニングによって増えた**筋核(筋肉の中の核)**は、
      短期の休息ではほとんど減らない
    • この“筋核の貯金”があるから、再トレ開始後の伸びが爆発する
  5. 筋サテライト細胞を増やす生活戦略が超重要
    • 3ヶ月以上の継続的な筋トレ
    • 6〜12RMの中〜高強度
    • 各筋群 週8〜16セット
    • 週2回以上の刺激
    • エキセントリック(遠心性)重視のトレーニング
    • 維持カロリー+α・十分なたんぱく質・良質な睡眠

ここから、データをもとにもう少し深掘りしていきます。


1. 「筋肉は何週間もつのか?」20本のメタ分析の答え

1-1. 20本・616名のデータで見た「筋力の持ち」

2022年にアリゾナ州立大学から発表されたメタ分析では、
**「筋トレをどのくらい休むと、筋力がどれだけ落ちるのか?」**が詳細に調べられました。

  • 対象研究:20本
  • 被験者:合計616名
  • 休息期間:数週間〜8ヶ月
  • 指標:
    • ベンチプレスなどの上半身筋力
    • レッグプレスなどの下半身筋力
    • 筋肉の断面積(CSA)

結果はなかなか衝撃的で、

16〜24週間(約4〜6ヶ月)休んでも、筋力は「トレ前より高いレベル」を維持

していた、というものです。

具体的には、

  • ベンチプレス:効果量 1.99
  • レッグプレス:効果量 3.16

と、“かなりの上乗せ分”が残っているレベルでした。

1-2. 32週間(8ヶ月)を超えるとどうなる?

一方で、

32週間(約8ヶ月)休むと、筋力はほぼ未訓練レベルまで戻る

ことも示されています。

つまり、

  • 4〜6ヶ月:まだ貯金が残っているゾーン
  • 8ヶ月近く:さすがに筋力はほぼリセットされるゾーン

というイメージです。


2. 筋肉量(筋肥大)は「3ヶ月」でかなり落ちる

筋力に比べて、**筋肉量(断面積)**はもう少し“戻りやすい”ことも同メタ分析で示されています。

  • 約12週間(3ヶ月)の休息
    → 筋肉の断面積はほぼトレーニング前のレベルまで減少
  • 6ヶ月時点
    → 「増えた分の筋量」はほぼゼロ

要するに、

筋肉の“見た目”は3ヶ月くらいのオフでかなりしぼむ
けれど、筋力は4〜6ヶ月までは意外と粘る

ということです。

だからこそ、「見た目がショボくなった…」と感じても、
神経系や筋核レベルの“土台”は残っている可能性が高いと考えられます。


3. 10週間完全オフ→再トレで何が起こる?(ユヴァスキュラ大 2024)

次に、2024年 ユヴァスキュラ大学の研究。
ここでは、

「一度しっかり鍛えたあとで10週間完全オフ。その後再開すると、どれくらいのペースで戻るのか?」

が調べられました。

3-1. 研究デザイン概要

  • 被験者:55名
  • グループ:
    1. 連続30週間トレーニング群
    2. 10週間トレ → 10週間完全休息 → 10週間再トレ群
  • トレ頻度:週2回
  • 指標:
    • レッグプレスの筋力
    • 上腕二頭筋・外側広筋の筋肉量

3-2. 1回目の10週間:どれくらい伸びる?

最初の10週間では、両グループとも当然しっかり伸びています。

  • レッグプレス筋力:+21%
  • 上腕二頭筋 CSA:+17%
  • 外側広筋 CSA:+17%

ここまでは“普通の筋トレの効果”です。

3-3. 10週間完全オフ:どれくらい落ちる?

続いて、完全にトレーニングを休む10週間のオフ期間に入ると——

  • レッグプレス:−5.4%
  • 上腕二頭筋 CSA:−7.3%
  • 外側広筋 CSA:−9.9%

と、筋力・筋量ともにそれなりに減少します。
ただし、完全にトレーニング前に戻るわけではないこともポイントです。

3-4. 再トレ10週間:爆速で“追いつく”

ここからが面白いところで、

再開後たった5週間で、休む前の筋力・筋肉量レベルまで戻った

さらにその後の5週間では、

連続30週間トレーニングしたグループと、ほぼ同じレベルまで到達

したことが示されています。

研究者たちは、その理由として、

  • 最初の10週間のトレーニングで筋核の数が増えた
  • この筋核は、10週間程度の休息ではほとんど減らない
  • 再トレーニングで**“筋核の貯金”が再びフル稼働**することで、
    → 筋力&筋肥大の伸びが加速した

というメカニズムを提案しています。


4. なぜ「一度つけた筋肉」は戻りやすいのか?──筋核と筋サテライト細胞

ここでキーワードになるのが、

  • 筋核(myonuclei)
  • 筋サテライト細胞(筋衛星細胞)

です。

4-1. 筋核とは?

筋核は、**筋線維の中に複数存在する“核”**で、
タンパク質合成など、筋肉の成長や維持を司る司令塔のような存在です。

  • 筋トレ(特に中〜高強度・一定期間の継続)によって筋核の数が増える
  • 一度増えた筋核は、短期〜中期の休息ではほとんど減らない

この「筋核が残る現象」が、いわゆる筋メモリーの正体と考えられています。

4-2. 筋サテライト細胞とは?

筋サテライト細胞は、筋線維の周りにある**“予備の幹細胞”**のようなもので、

  1. 筋トレなどで筋線維にダメージが入る
  2. 筋サテライト細胞が活性化・増殖
  3. その一部が筋線維に融合し、新たな筋核として組み込まれる

というプロセスを経て、筋核の数を増やす役割を担っています。

筋サテライト細胞が増える
→ 筋核が増える
→ 筋肉がデカくなり、かつ“戻りやすい身体”になる

という流れです。


5. 筋サテライト細胞を増やす5つのトレーニング戦略

では、どうすれば筋サテライト細胞を効率よく増やせるのか?
ここからは、具体的なトレーニング条件を整理します。

5-1. 3ヶ月以上の継続(トレーニング期間)

動物実験・ヒト研究をまとめると、

  • 最低3週間〜最長12週間で筋サテライト細胞の増加が報告
  • 特にヒトでは、3ヶ月程度の継続が一つの目安

同じ種目を最低3ヶ月継続してやり込む
→ その種目で鍛えられる筋サテライト細胞が増えやすい

というデータもあり、コロコロ種目を変えすぎないこともポイントです。

5-2. 6〜12RMの中〜高強度

研究から分かっているのは、

6〜12RM(6〜12回で限界が来る重さ)程度の負荷でないと、
筋サテライト細胞の増加はほとんど起こらない

ということです。

  • いわゆる低負荷・高レップ(20〜30回)中心のトレは、
    → 既存の筋繊維を太くすることはできても、
    新しい筋サテライト細胞を増やす力は弱い

“10回ギリギリ”くらいの重さを基本にするイメージを持つとよいです。

5-3. 各筋群 週8〜16セット

週あたりのボリュームも重要で、

  • 各筋群に対して週8〜16セット程度
    → 筋サテライト細胞の増加が期待できるゾーン

例)

  • 週3回ジムに行くなら
    → 1回あたり各筋群3〜5セット程度×3日
    → 合計で約9〜15セット/週

を目安にすると分かりやすいです。

5-4. 最低でも週2回の頻度

頻度に関しては、

週2回以上、その筋肉に刺激を入れる

ことで、筋サテライト細胞が増えやすくなる、というデータがあります。

  • 週1回“ドカンとやる”より、
  • 週2〜3回に分けて刺激した方が、筋核の積み上げには有利

と考えてOKです。

5-5. エキセントリック(遠心性)+伸長刺激を重視

マーストリヒト大学などの研究では、

遠心性収縮(エキセントリック)を強めることで、速筋繊維の筋サテライト細胞が増える

ことが示されています。

具体的には、

  • ダンベルカールなら
    → 上げる(求心性):両腕
    → 下ろす(遠心性):片腕に切り替えて負荷アップ
  • レッグプレスなら
    → 押すとき:両脚
    → 戻すとき:片脚でコントロール

など、“戻す側”に負荷を集中させる工夫が有効です。

ポイントは「ストレッチされた位置で強い負荷をかけること」
→ 長い筋長での刺激は、筋サテライト細胞・筋核増加にとってかなり重要


6. 栄養と生活習慣:筋サテライト細胞を増やす3つの鍵

トレーニングだけでなく、栄養と生活習慣も筋サテライト細胞に大きく影響します。

6-1. カロリーは「維持+少しプラス」

2017年の動物実験などでは、

  • カロリー制限(維持を下回る摂取)
    → 筋サテライト細胞の増殖が抑制される

ことが示されています。

「ガッツリ太るほどのオーバーカロリー」は不要だけれど、
少なくとも維持カロリーは割らないこと

が、筋サテライト細胞の増加には重要です。

6-2. たんぱく質:1.6〜2.0 g/kg+トレ後0.3〜0.5 g/kg

2018年のオーストラリア・カトリック大学の研究などから、

  • 日常:
    • 体重1kgあたり1.6〜2.0g/日のたんぱく質摂取で
      → 筋サテライト細胞の増殖がサポートされる
  • トレ直後:
    • 体重1kgあたり0.3〜0.5g(例:体重70kgなら21〜35g程度)
      → 筋サテライト細胞の数が増えやすい条件

といった目安が提案されています。

6-3. テストステロン・成長ホルモンと睡眠

2024年 名古屋大学のデータなどを含め、多くの研究から、

テストステロン/成長ホルモンの分泌が多いほど、筋サテライト細胞は増えやすい

ことが示唆されています。

そして、この2つのホルモンを自然に高める最強の武器が睡眠です。

  • 慢性的な睡眠不足
    → テストステロン低下・成長ホルモン分泌の阻害
    → 筋サテライト細胞の増殖にもマイナス
  • 対策:
    • 就寝前のスマホ・強い光を控える
    • 朝に日光を浴びて体内時計リセット
    • 可能なら7時間前後の睡眠時間を確保

「トレーニング・栄養・睡眠」
この3つがそろって初めて、筋サテライト細胞と筋核が“本気を出す”

と考えておくと分かりやすいです。


7. まとめ:休んでもいい。大事なのは「筋核を貯金しておくこと」

最後にもう一度、この記事の要点を整理します。

  • 筋力は4〜6ヶ月休んでも、まだトレ前より高いレベルを維持しやすい
  • 筋肉量は3ヶ月の休息でかなり落ちるが、6ヶ月経ってゼロになるわけではない
  • 10週間完全オフでも、再開後5週間で元のレベルに戻り、10週間で連続群に追いつく
  • そのカギは、トレーニングで増えた筋核(+その元となる筋サテライト細胞)
  • 筋サテライト細胞を増やすには:
    • 3ヶ月以上の継続トレ
    • 6〜12RMの中〜高強度
    • 各筋群 週8〜16セット
    • 週2回以上の頻度
    • 伸長刺激&エキセントリック重視
    • 維持+αカロリー・十分なたんぱく質・良質な睡眠

「筋トレを休んだら全部無駄になる」というのは誤解で、
むしろ、しっかり積み上げた筋核が残っている限り、
休息は**“次の成長を加速させる準備期間”**になり得ます。

病気・ケガ・仕事・家庭の事情などで、どうしてもトレーニングが途切れることはあります。
それでも、これまで積み上げてきた筋核と筋メモリーは、あなたを裏切りません。

だからこそ、「どうせ休むなら意味のある休息にする」イメージで、

  • 今できる範囲で筋サテライト細胞を増やしておく
  • 休んでいる間は栄養と睡眠だけは崩さない

この2つだけ、ぜひ意識してみてください。

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