「大胸筋を本気で発達させたいなら、ディップスをどう扱うべきか?」
を、論文ベースでガッツリ深掘りしていきます。
- すでにディップスをやっている人は
→ 自分が初級・中級・上級どのレベルか
→ どこを直せば、もっと大胸筋に効かせられるのか - これから取り入れようとしている人は
→ ケガを避けつつ、最短で効果を出すやり方
が、この記事を読み終えるころにはハッキリ分かるようになります。
1. ディップスは大胸筋にどれだけ効くのか?
まずは「そもそもディップスって、本当に大胸筋に効くの?」という話から整理します。
1-1. ブレット・コントレラス博士の筋電図データ
筋トレ科学界隈ではおなじみ、
ブレット・コントレラス博士(『自重筋力トレーニングアナトミー』の著者)が、
大胸筋・上腕三頭筋の筋電図(EMG)を用いて、各種目の筋活動を比較しています。
その中でディップスのデータを見ると:
- 大胸筋上部
- 大胸筋中部
- 大胸筋下部
- 上腕三頭筋
いずれも非常に高いピーク筋活動を示していますが、特に注目なのが
大胸筋下部線維のピーク筋活動が、ベンチプレスの約3倍
になっている点です。
1-2. ベンチプレスとの比較
135ポンド(約61kg)のベンチプレス時の大胸筋活動と比べると、
- 大胸筋上部・中部
→ ベンチプレスもかなり高いが - 大胸筋下部
→ ディップスの方が圧倒的に高いピークを示す
という結果になっています。
大胸筋下部は、
- “胸の下の輪郭”を作る
- 腹筋との境界線をクッキリ見せる
- いわゆる「バキッ」とした胸の下ライン
を作るうえでめちゃくちゃ重要ですが、
解剖学的にかなり鍛えにくい部位でもあります。
だからこそ、
ベンチプレスだけでは取りこぼしやすい「大胸筋下部」を狙い撃ちできる
ディップスは、大胸筋トレーニングの中でも“代えの効かないポジション”にいる
と言えます。
2. とはいえ「ケガが多い」危険な種目でもある
ここで一つ、絶対に無視してはいけないポイントがあります。
ディップスは、構造的にケガが起こりやすい種目です。
2-1. 大胸筋断裂の症例報告
1998年、サウスカロライナ医科大学の報告では、
ディップス中に大胸筋断裂を起こした症例が報告されています。
ベンチプレスのように「潰れてバーベルが落ちてくる」タイプの大事故ではありませんが、
- 大胸筋の部分断裂
- 画像では映りにくいレベルの微細損傷
といった“ジワジワ系のダメージ”が積み重なりやすい種目だ、ということが分かっています。
2-2. 肩関節の伸展可動域が“正常値オーバー”になりやすい
通常、**肩関節伸展(腕を後ろに引く動き)の正常可動域は約50°**と言われています。
ところがディップスのボトムポジションでは、
- 個人差はあるものの
- 肩関節伸展が65°前後まで入りやすい
というデータがあり、
解剖学的な正常範囲を超えた位置で負荷がかかることが問題になります。
その結果、
- 肩関節前方の筋肉
- 靭帯
- 関節包や軟部組織
に過大なストレスがかかり、肩の痛みや大胸筋の損傷につながるリスクが高まるわけです。
つまり、ディップスを語るうえで最重要なのは
「いかにケガを防ぎながら、大胸筋にだけ負荷を集中させるか」
という安全設計の部分です。
ここを押さえたうえで、次に科学的に正しいディップスのやり方を整理していきます。
3. 科学が教える「安全かつ効く」ディップス4つのポイント
ディップスを効果的に行うためのPOINTは、次の4つです。
- バリエーションの選び方
- 体重のかけ方(重心線)
- 肩甲骨・胸・脇のポジション
- 回数設定と荷重(疲労感の使い方)
3-1. まず選ぶべきは「バー・ディップス」
ディップスには大きく3つのバリエーションがあります。
- ベンチディップス
- リングディップス
- バーディップス(平行棒で行う一般的なディップス)
2022年、サザンクロス大学の研究では、
3Dモーションキャプチャ+筋電図を用いて、これら3種の筋活動を比較しています。
結果(要点):
- ベンチディップス
→ 上腕三頭筋の筋活動が最大
→ 大胸筋下部の活動は低め - バーディップス/リングディップス
→ 大胸筋下部の筋活動が顕著に高い
ただし、
- リングディップスは不安定性が高く
- ケガのリスクも高まる
という点を考えると、
「筋肥大×安全性」のバランスが最も良いのはバーディップスと考えられます。
ジムでも自宅用器具でも、まずは**「バー・ディップス一択」**にしてOKです。
3-2. 重心線は「肘ではなく、胸の上」に通す
次に重要なのが、体重のかけ方=重心線です。
ベンチディップスが“上腕三頭筋種目”になる理由
ベンチディップスでは、
- 体がバー(ベンチ)より前方にあり
- 重心線は肘関節の近くを通る
そのため、
- 肘の安定化に関わる上腕三頭筋の負担が増え
- 結果として上腕三頭筋の筋活動が最大化 → 大胸筋はサブ
となります。
よく椅子やテーブルを使ったディップスが「胸トレ」として紹介されていますが、
あれは基本的に“上腕三頭筋トレ”です。
大胸筋に効かせたいなら「前傾+胸に重心」
大胸筋に刺激を入れたい場合は、
- 体をやや前傾させる
- 重心線が胸の真上を通るようにする
これが鉄則です。
- 体をまっすぐ立てたまま行う → 三頭寄り
- 体を軽く前傾させ、みぞおち〜胸上部あたりに体重を乗せる
→ 大胸筋下部〜中部にピーク負荷が入る
バーの位置と上半身の角度を調整し、
「バーの上に胸郭が乗っている感覚」を作れるかどうか
が、ディップスを“胸トレ化”するための最重要ポイントです。
3-3. 肩甲骨より「胸を張る」を意識/脇は“軽く”開く
① 肩甲骨:複雑に考えず「ずっと胸を張る」
ベンチプレスでは、
- 肩甲骨内転
- 肩甲骨下制
を意識することが、ケガ予防と効かせるためのポイントになります。
ただ、ディップスでは
- 両手がバーに固定
- 体重が常にかかっている
- 動作中に細かく肩甲骨を意識するのは、むしろ危険
という状況になるので、もっとシンプルなキューを使った方が安全です。
そこでおすすめなのが、
「常に胸を張る。肩を丸めない。」
という意識に統一すること。
- トップポジション(体が一番高い位置)で肩をすくめたり丸めない
- 胸を張ったまま、ゆっくりボトムまで下ろす
この2つを守るだけで、
- 肩関節の過度な伸展(後ろへの反らしすぎ)
- 大胸筋付着部の急激な伸長
を避けることができ、断裂リスクをかなり下げられます。
② 脇は「軽く開く」が正解
よくある質問が、
「脇は閉じた方がいいの? 開いた方がいいの?」
です。
大胸筋の主な作用の一つに肩関節水平屈曲(腕を横から前に閉じてくる動き)があり、
この動きを最大化するには、
- 脇を軽く開いた状態から
- 肩関節水平伸展の方向(腕をやや開いた状態)で伸張させ
- そこから押し上げてくる
というポジションが有利になります。
- 脇を閉じすぎる
→ 上腕三頭筋の活動が増え、大胸筋の貢献は下がる - 脇を開きすぎる
→ 肩関節が不安定になり、ケガリスクアップ
そのため、
「脇は軽く開く」
という中間ポジションが、一番バランスが良いです。
3-4. 回数設定と荷重:10回で限界を狙う
ディップスの“レベル判定”の目安
Strength Level(世界中のトレーニーの記録を集計しているサイト)では、
自重ディップスの回数による経験値の目安が提示されています。
- 8回まで:初級者
- 20回まで:中級者
- 34回まで:上級者
- 49回以上:エリート
この「自分がどこにいるか」をざっくり把握しておくと、
荷重の判断やトレーニング設計がしやすくなります。
2022年・サザンクロス大学:疲労と筋活動の関係
同じく2022年、サザンクロス大学の研究では、
- トレーニー15名を対象に
- ディップスで疲労困憊になるまで反復させ
- そのときの
- 大胸筋
- 上腕三頭筋
- 僧帽筋
- 広背筋
- 前鋸筋
などの筋活動と、肩関節の動き(キネマティクス)を解析しています。
結果(要約):
- 疲労感が強くなるほど、
- 大胸筋
- 上腕三頭筋
の筋活動は有意に増加
- 肩や体幹を安定させる
- 僧帽筋
- 広背筋
- 前鋸筋
の活動も高まった
- 一方で、肩関節の伸展角度(後ろへの反らし)は増えなかった
つまり、
疲労感が出ることで筋活動はむしろ強くなるが、
肩の“反らしすぎ”が勝手に増えるわけではない
→ 疲労のせいで急激にケガリスクが跳ね上がるとは言えない
という結論です。
じゃあ、何回・どんな強度がベスト?
以前からの知見も含めると、
- 20回以上できる軽強度
→ 心肺的にはキツいが、筋肥大効率は落ちやすい - 10回前後で限界が来る強度
→ 筋肥大・筋力増強には最も効率的
とされます。
したがって、ディップスは
「10回で限界が来る強度」に調整するのがベストです。
レベル別おすすめ設定
- 初級者(8回未満)
- 補助付きディップス(アシストマシン)
- 足を軽く地面についた状態でのディップス
- まずは**“正しいフォームで10回×3セット”**を目標に
- 中級者(20回前後できる)
- 加重ベストの使用がおすすめ
- 体に密着するベストなら、重心線を乱さずに負荷だけ増やせる
EMGを比較しても、
- 自重ディップス vs 加重ディップス
→ 加重ありの方が大胸筋・三頭筋の筋活動が大きい
ことが示されており、
ディップス+加重ベストは、大胸筋下部の伸長刺激を稼ぐための非常に優秀な武器になります。
4. ディップスを「大胸筋メニューの中でどう使うか?」
ここまでで、
- ディップスは大胸筋下部に超効く
- ただし構造的にケガリスクも高い
- 正しいやり方なら、安全性と効果を両立できる
という話をしてきました。
では、
「具体的に、胸トレのどのポジションにディップスを入れるのがベストか?」
という実践部分を簡潔にまとめます。
4-1. 大胸筋全体を育てる“基本4種”のイメージ
論文・筋電図のデータを整理すると、大胸筋トレーニングはざっくり以下の役割分担になります。
- ダンベルプレス系(フラット or インクライン)
- 可動域が広く、伸長刺激+高負荷を両立できる
- バーベルよりも安全にストレッチポジションを取れる
- バーベルプレス系(フラット or インクライン)
- 扱える重量がダンベルより約10%高い(NY市立大学の研究)
- 1RMや筋力アップを重視したいときに有効
- ディップス(バーディップス)
- 大胸筋下部を中心に、上部・中部・三頭筋長頭まで高い筋活動
- 伸長刺激が強く、ボトムでのメカニカルストレスを稼ぎやすい
- ケーブルフライ/マシンフライ
- 高負荷というより、代謝的ストレス(乳酸・水素イオンなど)を稼ぐ“仕上げ”
- 負荷が抜けにくく、内転位(腕を内側に寄せる位置)での刺激が入れやすい
ここに、
- 腕立て伏せ(プッシュアップ)
- 低負荷高レップのボリューム稼ぎ
- ベンチプレスと同等の筋肥大効果を示した研究もあり(2017年 日本体育大学ほか)
などを組み合わせていくイメージです。
4-2. ディップス入り・胸トレサンプルメニュー
例:週2回胸トレをする場合
DAY1(高負荷+伸長刺激メイン)
- インクラインダンベルプレス 8〜10回 × 3〜4セット
- フラットダンベルプレス or バーベルベンチ 8〜10回 × 3セット
- バーディップス(加重) 10回で限界 × 3セット
- ケーブルフライ(下から上) 12〜15回 × 2〜3セット
DAY2(代謝ストレス・ボリュームメイン)
- プッシュアップ(足を上げた腕立て) 限界手前まで × 3セット
- バーディップス(自重) 10〜15回 × 3セット
- ケーブルクロスオーバー(肘をやや曲げて内転を強調) 15〜20回 × 2〜3セット
ポイントは、
- 毎回ディップスを“メイン種目”にする必要はない
- 週2回のうち1回は「加重してガッツリ」、もう1回は自重でボリューム稼ぎ
のように役割分担することです。
5. まとめ:ディップスは「使い方を知っている人だけ」が得をする種目
最後に、この記事で押さえておきたいポイントを整理します。
- ディップスは
→ 大胸筋下部に対して、ベンチプレスの約3倍のピーク筋活動を示すほど強力
→ 上部・中部・三頭筋長頭にも高い筋活動が見られる - 一方で、
→ 肩関節伸展が正常可動域(約50°)を超えて65°前後に達しやすく
→ 大胸筋断裂などの症例も報告されている“ケガリスクの高い種目”でもある - 科学的に安全かつ効果的に行うためには:
- バーディップスを選ぶ(リング・ベンチディップスは避ける)
- 重心線を肘ではなく“胸”に通す(体をやや前傾)
- 常に胸を張る・脇は軽く開く(肩を丸めながらボトムに入らない)
- 10回で限界が来る強度に調整し、レベルに応じて補助 or 加重を使う
- ディップスは、
→ ダンベル・バーベルプレス
→ ケーブル・マシンフライ
と組み合わせることで、大胸筋の「厚み+下部ライン+仕上げ」をまとめて狙える
ディップスは「とりあえずやる種目」ではなく、
**“正しく扱える人だけが、爆発的なリターンを取れるハイリスク・ハイリターン種目”**です。
今日の内容を踏まえて、
- フォーム
- 重心の位置
- 回数設定
- 荷重方法
を一つずつ見直していけば、
大胸筋下部の輪郭・胸全体の立体感が、確実に変わってきます。
安全第一で、ぜひ“科学が推すディップス”を自分のルーティンに組み込んでみてください。
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