この記事では、
- 「どこまで限界に近づくと、筋肥大はどれくらい変わるのか?」
- 「筋力アップだけを狙うなら、本当に限界までやる必要があるのか?」
- 「RIR0(完全オールアウト)とRIR2(あと2回できる)で筋肥大はどれくらい違うのか?」
- 「自分で“限界までやったつもり”は、どれくらいズレているのか?」
- 「実際にどうやって1RMとRPEを使って“正しい強度”を決めれば良いのか?」
を、論文ベースで整理していきます。
1.“Failureへの近さ(RIR)”を連続的に調べた2024年メタ回帰
まず、このテーマの土台になるのが、
2024年に発表された「RIR(何回分余力が残っていたか)」と筋力・筋肥大の関係を調べたメタ回帰研究です。
1-1.何をした研究か?
- 対象:55研究
- 効果量:
- 筋力:243効果量
- 筋肥大:140効果量
- 「限界まで or 限界手前」といった二分ではなく、
“あと何回できたか=RIR”を0〜20回程度の連続変数として扱ったのがポイントです。
RIRのイメージ:
- RIR0:1回も上がらない、完全オールアウト
- RIR2:あと2回はギリいける
- RIR5:あと5回くらい余裕あり
1-2.筋力に対する結論
このメタ回帰の結論はシンプルです。
RIRと筋力向上には、ほぼ関係がない
RIRを0に近づけても、
RIRを2〜4程度に保っても、
統計的には筋力の伸びに大きな差は見られませんでした。
筋力アップの主役は、
- 「どれくらい重い重量(%1RM)を扱ったか」
であり、
- 「どこまで限界に近づいたか」はそこまで重要ではない
と解釈できます。
1-3.筋肥大に対する結論
一方で、筋肥大に関しては明確で、
RIRが小さい=限界に近づくほど筋肥大効果は大きい
という“マイナスの直線関係”が見られました。
もちろん、RIR0とRIR2で劇的に違うわけではありませんが、
- RIR5〜8:刺激が弱くなりやすい
- RIR0〜2:筋肥大刺激が強くなりやすい
という傾向はほぼ固まってきています。
2.RIR0 vs RIR2をガチで比較した2025年「Without Fail」研究
次に、あなたが一番気になっているであろうテーマ。
「完全オールアウト(RIR0)と、あと2回分のRIR2って、
結局どれくらい筋肥大に差があるの?」
これを単セットトレーニングで正面から比較したのが、2025年の “Without Fail” 研究です。
2-1.研究デザイン
- 論文名:
Without Fail: Muscular Adaptations in Single-Set Resistance Training Performed to Failure or with Repetitions-in-Reserve - 著者:Hermann T. ら(Lehman College / Schoenfeld ら)
- 対象:トレ歴平均4.4年の男女42名
- 期間:8週間
- 頻度:週2回
- 種目:合計9種目(ベンチ、ロー、スクワット系など)
- セット数:各種目1セットのみ
グループ分け:
- FAIL群(RIR0)
- 毎セット、本当に1回も上がらなくなるまでオールアウト
- RIR2群
- 「あと2回くらいならいける」ところでセット終了
いずれも、重量やボリュームはコントロールされた条件です。
2-2.結果:筋力 vs 筋肥大
筋力
- ベンチ、スクワットなどの最大筋力(1RM)は両群とも同程度に向上
- FAILとRIR2で有意差なし
→ 「筋力アップだけが目的なら、オールアウトまでする必要はない」
という結論と整合します。
筋肥大
筋肥大に関しては、部位によってばらつきがあるものの、
- FAIL群:最大で +9.5% 程度の肥大
- RIR2群:最大で +4.6% 程度の肥大
という差が見られました。
ただし重要なのは、
全体的な筋肉量(全測定部位を平均)で見ると、両群の差はごく僅かで、統計的にはほぼ同じ
という点です。
2-3.実務的な解釈
- 筋肥大だけを最大化したい → RIR0がわずかに有利
- しかし、その差は「劇的」ではなく、
RIR2でもほぼ同等の筋肥大が得られる - 筋力に関しては、どちらもほぼ同じ
つまり、
「毎セットオールアウトしないと意味がない」
というのは、かなり誇張された表現だと言えます。
3.“限界まで vs 限界までじゃない”を比較したメタ分析
ここで、もう1つ関連する流れとして、
「完全に失敗するまでやるトレーニング」と「失敗手前で止めるトレーニング」の比較メタ分析も押さえておきます。
3-1.2022〜2023年のメタ分析の結論
代表的なものとして、
- Grgic J. らのメタ分析(2021–2022)
- Refalo M. らによる「proximity-to-failure と筋肥大」のシステマティックレビュー
などがありますが、これらをざっくりまとめると、
- ボリューム(重量×回数×セット)を揃えた場合
→ 失敗までやっても、手前で止めても
筋力・筋肥大ともに“ほぼ同じ” - 一部、「高い速度低下(=failureに近いセット)」の方が筋肥大が大きい傾向はあるが、
→ 効果量はそこまで大きくない
つまり、
「失敗まで行かないと筋肉はつかない」というのは誤り
「特に筋力に関しては、failureかどうかよりも“重量とフォーム”の方が重要」
という整理になります。
4.問題は「多くの人が“限界”を2回分くらい過小評価している」こと
ここで1つ、大きな落とし穴があります。
「じゃあ自分はRIR2でセット終えるわ!」
と思っても、その“RIR2”がかなりズレている可能性が高いという点です。
4-1.初心者は“軽すぎる負荷”を選びがち
2004年、グラントバレー州立大学(Glassら)の研究では、
筋トレ初心者に「筋力増強に十分だと思う負荷」を自由に選んでもらったところ、
- 自己選択した負荷は 1RMの約40〜57%
- 一般的に筋力向上や筋肥大に推奨されるのは
少なくとも1RMの60%以上
とされているので、ほとんどの初心者は「軽すぎる負荷」を選んでいたことがわかりました。
4-2.トレ歴1年以上でも“2回分”ズレていることが多い
さらに、トレーニング経験者を対象とした研究やスコーピングレビューでは、
- 「RIR0=限界まで」と自己判断しても、
実際はあと2回前後はできた - 「RIR2」と自己申告している時点で、
実測ではRIR4近い強度だった
という報告もあります。
つまり現実には、
- オールアウトした“つもり” → 実際は RIR2
- RIR2の“つもり” → 実際は RIR4
となってしまっている可能性が高い、ということです。
5.だからこそ「1RM+RPE」で客観的に強度を決めるべき
感覚だけで「たぶんRIR2」とやっていると、
想定よりもかなり弱い強度でトレーニングしてしまうリスクがあります。
そこで重要になるのが、この記事の後半で紹介している、
1RM × RPE(自覚的運動強度)を併用した強度設定
です。
5-1.1RMとは?
- 1RM(1 Repetition Maximum)
→ 「1回だけギリギリ挙げられる重量」のこと
例)ベンチプレスで100kgを1回だけ挙げられる場合
→ 1RM = 100kg
1RMの何%かによって「大体何回くらいできるか」の目安は、
多数の研究と実務からだいたい決まっています。
- 100%1RM:1回
- 90%1RM:3〜4回
- 80%1RM:7〜8回
- 75%1RM:10回前後
など。
5-2.RPEとは?
**RPE(Rating of Perceived Exertion)**は、
「どれくらいキツかったか」を数値で表す指標
です。
RIRと対応させると、
- RPE10:これ以上1回もできない(RIR0)
- RPE9:あと1回だけいけそう(RIR1)
- RPE8:あと2回くらいならいけそう(RIR2)
というイメージになります。
5-3.最適な中強度を作る手順(実践編)
ステップ①:1RMを測る
例としてベンチプレスで説明します。
- ウォームアップを行う
- 少しずつ重量を増やしながら、「1回だけギリギリ挙がる重量」を探す
- それがあなたのベンチプレス1RM
ステップ②:1RM75%の重量を計算
- 1RMが100kgなら → 75kgが“75%1RM”
ステップ③:75%1RMで10回やってみる
- 75kgで10レップ行い、セット終盤のきつさをRPEで評価
ステップ④:RPEに応じて強度を調整
- RPEが8以上(=あと2回以内)
→ 「中強度としてちょうど良い」 - RPEが7以下(=まだ3回以上できそう)
→ 強度が弱すぎる
→ 重量を少し上げる or 回数を1〜2回増やす
このように、
1RMで“形式上の強度”、RPEで“実際のキツさ”を微調整
することで、
あなた固有の筋繊維タイプ・持久力を踏まえた最適な負荷が決まります。
これは、1RMの理論値だけでは吸収しきれない「個人差」をRPEで補正する作業とも言えます。
6.「限界まで追い込むべきか?」への最終回答
ここまでの論文とデータを全部まとめて、
“あの”よくある疑問に答えます。
Q.筋トレは限界まで追い込むべきですか?
6-1.筋力がメインの目的の場合
- 1RMの高重量(例:80〜90%1RM以上)を扱う
- 各セットはRIR2〜4程度残してOK
- フォーム維持・ケガ予防・総ボリュームの確保が優先
→ 毎回オールアウトにする必要はまったくないし、
むしろ疲労・フォーム崩れのリスクを考えると、
追い込みすぎない方が長期的な筋力アップには有利です。
6-2.筋肥大がメインの目的の場合
- RIR0〜2の“限界近く”でセットを終えると筋肥大刺激は最大化しやすい
- ただし、**RIR0とRIR2の差は「僅か」**で、
→ 「RIR2でもかなり高いレベルの筋肥大が得られる」 - 毎セットRIR0だと疲労が蓄積しやすいので、
→ 部位・週あたりボリュームと相談しながら使い分けるのが現実的
FAUのプレスリリースでも、
筋肥大狙いならRIR0〜5の範囲で failure に近づけるのが良いとしつつ、
「強さ狙いならRIR3〜5程度残して高重量を挙げるのが良い」とまとめています。
6-3.一番やってはいけないパターン
一番危ないのは、
- 強度設定をせず、なんとなく適当な重量を選ぶ
- 「たぶんRIR2くらい」と感覚だけでやる
- 実際はRIR4〜6くらいのヌルい負荷
- 「追い込んでるつもり」だけど、刺激は足りていない
というパターンです。
なので、「限界まで追い込むかどうか」以前に、
まずは1RMとRPEで“正しい中強度”を作ることが最優先です。【筋トレ真実】“限界まで追い込め‼”は嘘?最新研究でわかった本…
7.筋肉痛は“効いた証拠”ではない
最後に、よくある勘違いを1つだけ。
- 「筋肉痛がある=筋トレが効いた」
- 「筋肉痛がなければ強度が足りない」
これは、最新のエビデンスからは完全に否定されています。
- 筋肉痛の正体は、主に筋そのものではなく、周囲の結合組織や軟部組織の損傷
- 筋肥大との関連はかなり弱い・ほとんどないという報告が多数
筋肉痛はあくまで「副産物」であって、
筋肥大の必要条件でも十分条件でもありません。
8.この記事の要点まとめ
- 筋力アップ
→ failureかどうかより「どれくらい重い重量を扱うか」が大事
→ RIR2〜4くらい残してOK、むしろその方が長期的には有利 - 筋肥大
→ failureに近づくほど(RIRが小さいほど)筋肥大刺激は強くなる傾向
→ ただしRIR0とRIR2の差は小さく、RIR2でも十分大きな筋肥大が得られる - 現実の問題点
→ 初心者は1RM40〜57%程度の“軽すぎる負荷”を選びがち
→ 経験者でも「限界」の自己評価は平均2回分くらいズレることが多い - 解決策
→ 1RMで形式上の強度を決める
→ RPEで実際のきつさを微調整する
→ 中強度(例:75%1RMで10回、RPE8以上)を基準にプログラムする - 完全オールアウトのまとめ
→ 毎回やる必要はない
→ 筋肥大をもう少しだけ上乗せしたい局面で“スパイス”として使うイメージ
参考文献(References)
- Robinson ZP, Zourdos MC, et al. Exploring the Dose-Response Relationship Between Proximity to Failure and Resistance Training-Induced Changes in Muscle Strength and Size. Sports Medicine. 2024.
- Hermann T, Mohan AE, Enes A, et al. Without Fail: Muscular Adaptations in Single-Set Resistance Training Performed to Failure or with Repetitions-in-Reserve. Med Sci Sports Exerc. 2025;57(9):2021–2031.
- Grgic J, Lazinica B, Mikulic P, et al. Effects of Resistance Training Performed to Repetition Failure or Non-Failure on Muscular Strength and Hypertrophy: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Sport and Health Science. 2022.
- Refalo MC, Helms ER, Trexler ET, et al. Influence of Resistance Training Proximity-to-Failure on Skeletal Muscle Hypertrophy: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Medicine. 2023;53:649–665.
- Glass SC, Stanton DR. Self-selected resistance training intensity in novice weightlifters. J Strength Cond Res. 2004;18(2):324–327.
- Steele J, Fisher J, et al. Are we lifting heavy enough? Self-selected loads in resistance exercise: A scoping review and exploratory meta-analysis. 2022.
- Schoenfeld BJ, Grgic J, et al. Loading Recommendations for Muscle Strength, Hypertrophy, and Local Endurance: A Re-Examination of the Repetition Continuum. Sports Medicine. 2021;51:2151–2172.
- Refalo MC, et al. Influence of Resistance Training Proximity-to-Failure Determined by Repetitions-in-Reserve on Neuromuscular Fatigue in Resistance-Trained Males and Females. Sports Medicine – Open. 2023;9:10.
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